ある人が、鉄道好きな友人と小海線の列車を待っていたんだそうです。
それで、「電車なかなか来ないね」って言ったら
「ここにデンシャは永久に来ないよ。だって電化されていないから・・・」
と言われてしまったそうです。

なるほど言われてみれば、線路の上空に電線(架線)はないし、
列車も何やらガラガラと、バスかトラックのような音を立てて
やってきた。
「これはディーゼルカー。軽油で走ってるから実はデンシャじゃないんだ」

納得。納得だけど、なんだか揚げ足とられた感もあるけどな。笑



今年(2015年)春に廃止されてしまいましたが、
上野と札幌を結んでいた寝台特急「北斗星」

この列車に乗って北海道に遊びに行ってきた人が、
鉄道好きな友人に
「電車でのんびり行くのも飛行機と違ったよさがあるよね!」
と話したところ、その鉄道好きな友人に
「北斗星はデンシャじゃないよ!」
と、言われてしまい、疑問に思ったそうです。

「えっ?なんで?まぁ確かに北海道の区間(東室蘭〜五稜郭)では、
線路の上に電線なくて、
ディーゼルと思しき機関車がガラガラいって引っ張ってたけど、
函館から上野までは、電気機関車が引っ張ってるじゃん!」

確かにおっしゃる通りです。
でも、かえってきた答えはこうでした。

「あれは機関車が引っ張っているから、客車列車とか機関車列車といって
デンシャとは言わないんだよ」

コイツ友達いないタイプだな。笑 でもなんだかわかるようなわかんないような・・・笑


この文章。もう一度上から読み返してみると、
そういえば筆者も「小海線の列車」「この列車」と表現し、
「電車」というコトバを使っていない・・・


では「電車」というのはいったいどういうものなのでしょう?

これを知るには「鉄道車両の発達史」をすこし知る必要があります。

日本初の鉄道が誕生したのは明治5年。1872年10月14日でした。
新橋(今の汐留)〜横浜(今の桜木町)ですが、

このころの鉄道は
「動力を持った機関車」が「お客を乗せるハコ(つまり客車)」を
引っ張るスタイルでした。
これは世界的に見ても最もわかりやすく且つ標準的なスタイルでした。

「機関車」はもちろん「蒸気機関車」

客車は時代とともに大型化されたり
座席車だけでなく寝台車や食堂車なども作られていきます.


年月が経つにつれて
軽油を燃料とした「ディーゼル機関車」や、
電化された路線では「電気機関車」が現れましたが
「機関車が客車を引っ張る」というスタイルは変わりませんでした。

日本ではこの
「機関車が客車を引っ張る」
スタイルが昭和中期まで標準でした。


このスタイルの利点は
動力が機関車に集中しているので機関車は高価で重たいのですが、
引っ張られるだけの客車は安く、軽く作れる。
引っ張られるだけの客車は静かで乗り心地が良い。
お客の数に応じて客車の数を比較的自由に変えられる。
「速く走れる機関車」「坂に強い機関車」など
機関車を付け替えるだけでいろんな条件の路線を走れる。
客車を貨車に変えれば「貨物列車」にもできる。


反対にこのスタイルの欠点は
終点で折り返す時に、機関車を前から後ろに付け替えなければならない。
→これを「機回し」と言います。
そのため、「機回し用の線路」や設備が必要。時間も手間もかかる。
さらに運転席が一方にしか向いてない蒸気機関車は
機関車自体も前後の向きを変えなければいけない。
機関車だけにしか動力がないので、走り出しが重く、
なかなかスピードが上がらない。
一度スピードが上がるとなかなか停まれない
(これは鉄道車両に共通の欠点)
編成に「機関車」という「お客さんの乗れない車両」ができてしまう。



では、これらの欠点をなくすにはどうしたらいいのでしょうか?

「機関車に引っ張られなくても自走できる客車」
があったらいいですよね?


そこで、客車の床下に収まるように
小型の制御器などを取り付け、台車にモーターを換装、
前後に運転席をつくって自分で走れるようにしたのが
「電気で自走できる客車」→「電動客車」

この
「電動客車」こそが「電車」の正体だったのです。


初期の電車は、小型のもので1両から2両で走り、
普段使いの近距離用に使われました。
今でいうと路面電車か、
江ノ電や銚子電鉄、
えちぜん鉄道や富山地方鉄道の電車のイメージです。
その後、甲武鉄道(中央線の前身)が都心から郊外への
高速電車を走らせましたが、
それでも「近距離用」の域を出ないものでした。


初期の電車は、
床下からのモーターによる騒音や振動が大きく、
高速走行するには乗り心地が悪い。
電化されている路線や距離がまだ少ないこともあり、
「電車」は「近距離用の格下の鉄道車両」
というイメージが強かったと言います。

中距離、長距離は乗り心地の良い「客車列車」。
「電車」は近距離用。
これが当時の鉄道マンの常識として扱われていました。


ところが、戦後の東海道線東京付近は、混雑が激しく、
前述の欠点を抱えた「客車列車」では、
増え続ける乗客をさばききれない状態が続きました。

そこで、「長い編成の電車列車」による
「中、長距離の高速運転」が研究されはじめました。


1950年に
「80系電車」が登場しました。
この電車はこれまでの「遅くて騒音や振動が大きくて近距離用」
というイメージから大きく変わった画期的な電車でした。

長い編成を組むため、モーターのない車両も編成に組まれる。
運転台のある車両は最前後車両と、
分割の都合上、中ほどに組み込まれる車両のみ。
モーターやバネ、床下の材料を工夫して騒音や振動を小さくした。
客室は客車並に乗り心地の良い車内にした。
等の特徴を持っていました。

「80系」電車は東京から小田原、熱海といった中距離の電車に使用され、
「(初代)湘南電車」としてながく親しまれました。。

これがのちに113系、211系、
そして現在のE231系やE233系に受け継がれていきます。

80系の登場と成功により、
「電車は中距離に充分使える!」
ならば
「電車でも長距離はイケる!」 国鉄技術陣はそう思ったそうです。


1956(昭和31)年、東海道本線全線の電化が完成し、
東京〜大阪間の「客車列車」特急「つばめ」が蒸気機関車から
電気機関車での運転に切り替えられ、
乗客も沿線住民も「煙害」から解放されました。

1等車や展望車などをつなげ伝統、風格のある「つばめ」号は
それでも「客車列車」で運転されましたが、

このころから長距離特急列車も「客車列車」から「電車列車」への
変革が考えられていたのです。


国鉄は20系電車、のちに151系と呼ばれる特急型電車を開発します。
この電車は
東京と大阪を6時間50分(のちに6時間40分)で結ぶ「こだま」号で
使用されたため「こだま形電車」と呼ばれ、親しまれました。
美しいボンネットスタイルのこの電車のデザインは、
のちの「とき」181系や「雷鳥」などの485系にも受け継がれました。





電車列車の利点は
複数の車両にモーターがついているので
それらを一斉に駆動することで加速が良い。
→ムカデのイメージか?笑
おんなじ理由で、坂にも強い。坂道発進も比較的得意。
終点に着いたら反対側の運転台に乗り移ればいいので折り返しが楽。
機関車のように特別重たい車両がないので線路を傷めにくい。
すべての車両にお客さんが乗れるので、大量輸送ができる。
汚いケムリがでない。

と、いいことずくめ。

「加速が良い」ということは
発車してすぐにスピードが上がるので、
強力なブレーキシステムと合わせれば
「駅と駅との間が短い区間」でもキビキビ走ることができます。
最初の用途だった近距離の通勤電車や
大手私鉄などにも向いていたというわけです。


ただし、日本では太平洋ベルトの鉄道は直流1500V
東北北海道は交流20000V 50Hz
北陸九州は交流20000V 60Hz
と、電化方式が違うため、
それらをまたがって走る場合は、それなりの対応が必要です。

それでも「電車」の利便性は高く、
非電化区間を除けば、ほとんどの鉄道車両が「電車」になっていきました。


その後、国鉄は、通勤用の101系電車(103系に進化)や
中距離用111系電車(113系、115系に進化)、
急行列車用に153系、165系。
交直流用に401系、475系電車などを開発。していきます。

「電車」は近距離用にとどまらず、
中距離から長距離区間にまで活躍の場を広げていきます。


性能も進化して、
それまでは「静粛性」の観点から「客車列車」が当たり前だった
「寝台列車」にさえ、583系という電車が使われ始めました。

「電車を寝台車に使う」
言い換えれば「寝台車に使えるほど静かで高性能な電車」は
世界的にも珍しいそうです。


1964(昭和39)年には東海道新幹線が開業。
日本が誇る「世界初の高速鉄道」も
0系という「電車」で登場しました。

ちなみに
フランスの高速鉄道TGVは、
客車の前後に客車とイメージをそろえた機関車をつなげた
「客車列車」です。


このように、近年日本の鉄道は「電車」中心に発展してきました。

電化されていない区間では「気動車(たいていはディーゼルカー)」
ですが、
人口の多い大都市圏はほとんどが「電車」。

歴史ある「客車列車」は寝台特急(ブルートレイン)等
のみとなってしまいましたが、それも廃止が続いています。


2015年現在、首都圏で言いますと、
「山手線」「中央線」「総武線」や「東海道線」「東北・高崎線」などの
普通列車(快速列車も含む)はすべて「電車」
新幹線や「わかしお」「踊り子」「あずさ」「ひたち」などの特急も
すべて「電車」です。
地下鉄や京浜急行などの都市の民鉄もほぼすべて「電車」なのです。


なので、我々が日常接する鉄道車両は
ほとんどが「電車」であることがわかります。



ここまでさんざん「電車」について書きながら
「客車」との違いについて書いてきて
こういうことを言うのもナンですが、

現在、多くの日本人にとって
鉄道の車両と言えば「電車」が当たり前なので、
「線路の上を走っているもの=電車」とする言葉の使い方は
「当たらずとも遠からず」
そんなに間違ったことでもないように思えてきます。


小海線や北斗星を「あれはデンシャじゃないよ」と
訂正する人。
→女の子にモテねえぞ!笑

「鉄道趣味人」としてのコダワリはわかりますが
アナタだって小学生の頃、
クツしか入ってないのに「下駄箱」って言ってませんでした?
フデなんて入ってないのに「筆箱」でしょう?

それを「ゲタなんて入ってないじゃん!」なんて言ってる
ヒネクレモノは嫌われてしまいますよね?笑


言葉は生き物です。
時代によって意味合いと使われ方が変わっていくことだってザラにあります。
そしてそれが正しい日本語になっていくことも。


最近はディーゼル区間なのに自動放送で「デンシャがまいります」
なんて言ってます。

個人的にはそれでいいんだと思います。


でもナカにはコウルサイ人もいるので、予防策。

線路を走っているものは「列車」です。
これは「客車列車」であろうと「電車列車」であろうと
「気動車列車」であろうとかわりません。
1両編成で「列」になってなくても「列車」なのです。
だから「列車に乗ってきた」と言えば、
コウルサイことを言われずに済みます。笑

回送列車なども含め営業運転している状態であればすべて「列車」

そして
車庫に停まって休んでいる場合は「車両」というのが
正解らしいです。

ああメンドクサイ 笑






















2015(平成27)年11月19日 作成

「電車、デンシャ」  「電車」ってなぁに?

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